前回の記事では、ユーザの心理ロイヤリティを醸成するには「最高の結果」と「最高の体験」、いわゆる「カスタマーサクセス」が必要なこと。そして、企業がユーザに対して最高の体験を与える為には「購入後サポートに対する考え方を「ランニングコスト」から「投資」に切り替える必要がある」という点をお伝えしました。
本記事では、購入後のサポートに対してどのような施策をすべきなのか、身近な例をあげて考えていきたいと思います。
購入後にユーザが体験することは?
購入後のサポートというと、どのようなサービスを思い浮かべるでしょうか。恐らくほとんどの方が「サポートデスク」や「テクニカルサポート」を一番最初に思い浮かべると思います。
「サポートデスク」や「テクニカルサポート」とは、製品を購入したユーザが、製品の使い方や、動作仕様、発生した不具合などを問い合わせるサポート窓口のことです。一般的なベンダーはサポートデスクを保持しており基本的なサービスの一つになっています。
テクニカルサポートは確かに非常に重要です。ユーザが製品を利用するに必要不可欠なサービスです。しかしながら、あまりにも浸透したサービスである為か、多くの方がカスタマーサクセスを「質の高いテクニカルサポート」と勘違いするケースが多くあります。
ここで気をつけて欲しいのが、「購入後のサポートに投資する」= 「サポートデスクに投資する」ではありません。カスタマーサクセスとサポートデスクは、密接な関係にあるものの、目的や手法が全く異なるものです。
では、企業がユーザに対して最高の体験を与える為に、どうするべきなのでしょうか。
購入後のユーザ体験を最高にしよう!
購入後のユーザ体験価値を最高のものにする為には、まずはユーザが何をするのかリストアップしていきましょう。
ここからは例として、あなたが新しくスマホ(iPhone/Android)を購入した場合に、その後何をするのか考えていきたいと思います。以下に私の例を書きますが、みなさんも一緒に考えてみてください。
Q1. スマホを購入した後、ユーザは何をするのか?
ユーザが「何をするのか」 | ユーザが「何を体験するか」 | 何を提供すればよりよい体験を与えられるのか? |
スマホをお店から家に持ち帰る | ||
湿気のあるところで画面保護シートを貼る | ||
電源を繋いで電池を入れる | ||
初期設定を行う | ||
パソコンと繋いで元のスマホのバックアップ復元を行う | ||
メッセージアプリや2要素認証アプリなどバックアップから復元できない情報を復元する | ||
必要な操作方法をググりながら使い始める | ||
約1ヶ月ぐらいで利用に慣れてくる |
次に、ユーザが各フェーズでどのような体験をするかも考えてしていきましょう。例えば「スマホをお店から家に持ち帰る」際は「お店から家までの移動」などが考えられます。
Q2. 各フェーズで、ユーザが「何を体験するのか」
ユーザが「何をするのか」 | ユーザが「何を体験するか」 | 何を提供すればよりよい体験を与えられるのか? |
スマホをお店から家に持ち帰る | 家に移動する | |
湿気のあるところで画面保護シートを貼る | 埃が入ってしまい何度も貼り直す | |
電源を繋いで電池を入れる | 100%充電されるまで待つ | |
初期設定を行う | Wifiに接続を行う 初期設定用のドキュメントを探す ドキュメントを読む | |
パソコンと繋いで元のスマホのバックアップ復元を行う | パソコンとケーブルを差し込む 復元までの間待つ | |
2要素認証アプリなどバックアップから復元できない情報を復元する | 手順をググる 復元に失敗して友人に他の方法で連絡する | |
必要な操作方法を確認する | ドキュメントを探す 手順をググる | |
約1ヶ月ぐらいで利用に慣れてくる | 利用方法を友達に共有する |
体験する内容は書けましたか?
「何をするか」と「何を体験するか」の違いは最初は掴みにくいかもしれません。ざっくり言うと、「何をするか」は目的、「何を体験するか」は目的を達成する為にユーザが行う事/体験する事を指します。
では最後に、ユーザの各体験をより良いものにするにはどうすれば良いか、アイディアを考えてみましょう。例えば「お店から家までの移動」という体験に対しては「ネット注文サービスで宅配する」など、様々なアイディアが考えられます。
Q3. 各ユーザの体験をより良いものにする為にはどうすれば良いか
ユーザが「何をするのか」 | ユーザが「何を体験するか」 | 何を提供すればよりよい体験を与えられるのか? |
スマホをお店から家に持ち帰る | 家に移動する | ネット注文サービスで宅配する |
湿気のあるところで画面保護シートを貼る | 埃が入ってしまい何度も貼り直す | 保護シール貼り付けサービスを開始する 埃がつかないシールを開発し提供する |
電源を繋いで電池を入れる | 100%充電されるまで待つ | 充電された状態で提供する |
初期設定を行う | Wifiに接続を行う 初期設定用のドキュメントを探す ドキュメントを読む | 初回起動時は4G回線に接続可能にする 必要な初期設定をまとめた紙を提供 初期設定方法の説明動画を準備 |
パソコンと繋いで元のスマホのバックアップ復元を行う | パソコンとケーブルを差し込む 復元までの間待つ | ネット経由で復元できるようにする 復元までの間、操作方法の動画を流す |
2要素認証アプリなどバックアップから復元できない情報を復元する | 手順をググる 復元に失敗して友人に他の方法で連絡する | よくあるQAに手順をまとめる 購入前の注意点として伝える |
必要な操作方法を確認する | ドキュメントを探す 手順をググる | お問い合わせ窓口を明記する 必要な手順を動画で提供する |
約1ヶ月ぐらいで利用に慣れてくる | 利用方法を友達に共有する | コミュニティサイトなどを作る |
思いつきましたでしょうか?
すでにお気づきかもしれませんが「何を提供すればよりよい体験を与えられるのか?」に纏めた内容こそ、ユーザが製品を購入し結果得るまでの「体験を最高」にするための施策、要するにカスタマーサクセスの施策となります。
自分たちのサービスで考えてみよう
このようにカスタマーサクセスを行う為には、ユーザがどの様な体験をし、各体験をどうすれば良くすることが出来るのかを見つめ直すことが非常に重要です。今回はスマホの例だったのでシンプルな内容にまとまりましたが、実際に企業活動で提供しているサービスの場合はより複雑なフェーズに別れます。また、各フェーズのゴール設定にも気を使う必要が出てくると思います。
例えばスマホの場合は、「スマホをお店から家に持ち帰る」というフェーズにおいては「家に帰る」ことがゴールなので、家に帰れば次のフェーズである「湿気のあるところで画面保護シートを貼る」に移ることができます。
しかしながら、例えば全社員のパソコンにインストールし利用するタイプのソフトウェア製品の場合を考えると、「端末にインストールする」と言っても「1台インストール完了する」ことはゴールではありません。本来は「全端末インストールが完了する」ことが「ゴール」となり、体験する内容も「社内で通知を行う」「インストール用のプログラムを作る」「インストール失敗時のトラブルシューティングをする」など多岐にわたります。
また、例えば社内に1万台の端末がある場合に「全端末インストールが完了しないと次のフェーズに移らない」という選択をしてしまうと、長期間かかってしまいスケジュールに問題が生じる為、ゴール設定について検討が必要になってきます(例えば80%インストール完了をゴールとする等)。
皆様が取り扱っている製品に一番詳しいのは皆様なので、一度自分の提供しているサービスに当てはめ、ユーザが購入後「ユーザが何をして」「どういった体験をするか」「どうすればより良い体験を提供できるか」という点を見つめ直してください。
この取り組みは一人で実施するのではなく、チームメンバーと集まってポストイットなどを利用しグループワークするとより効果的かと思いますので、是非実施してみてください!
ただ、この内容だけですとあまりにもスマホに寄りすぎているかと思いますので、次の記事からは、一般化されたフレームワークや、エクササイズ形式でをご紹介したいと思います!